副書廊白

□貴方の心はお見通し
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上杉姉弟(B謙信、綾御前、かすが)


「此処はとても美しいところですね。」

「おほめのことば、うれしゅうございます。」

一年の殆どを雪と氷に閉ざされた、まるで神が住まうかのような、清らかな、そして神聖な山。
滅多に人の訪れぬ、響く声も吸い込まれるようなその銀の山に、珍しい来訪者の姿。
そしてその山にそびえる城の主。
二人の歌うような声を聞くものは他に傍に控えるつるぎのみ。

「けれど…らしくありませんよ、謙信。」

先程と同じく歌うように、けれど些か厳しい声音で女人が言った。
つるぎは一瞬主の心のヒビの音が聞こえたと思った。

「このような所で心を閉ざしていて、愛ある戦ができますか。愛無き戦を重ねた後で、どのような顔をして虎とまみえるつもりですか。」

これまでの氷りついたような笑顔とは違う、少し困ったような笑みを浮かべて、観念したというように城主は口を開く。

「あねうえにはかないませんね。」

「弟の隠し事を見抜けないとでも思いましたか?姉を見くびるものではありません。」

女人はその儚げな口元をゆがませ満足げに笑った。

「まこと、たましいとはきなるもの。」

つるぎはこの一連のやりとりを、主を悩ませる相手を、主の心を見通す女人の存在を、羨ましく思った。
表に出すことはなかったけれど、鋭い訪問者には気づかれていたかもしれない。


【貴方の心はお見通し】



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